都知事選から見えた日本社会の歪み。私たちが戦う相手は?~教科書問題と憲法改悪~その2
前回の記事、都知事選から見えた日本社会の歪み。私たちが戦う相手は?~白い服の政治的意味・教科書採択・羽田新飛行ルート問題~その1の続編で、自民党憲法改悪案とも関連する教科書問題についてです。
4年に一度行われる教科書展示会に行きました。今回は、2025年度使用される中学校の教科書展示会でした。
歴史の教科書では、1889年(明治22年)2月11日に発布され太平洋戦争へと繋がった「大日本帝国憲法」と、太平洋戦争後に戦争の反省を込めて民主主義国家となるために国民が参加し制定した(民定憲法)現在の「日本国憲法」を、子ども自身が比較し学ぶことができる教科書があり感動しました!
一方、保健体育の教科書では、多様性を認め合う社会が求められているというのに、性的マイノリティに配慮した表現をしている教科書は1社だけだったことは非常に残念でした。
特に10代の時期は、自分の性的指向を自覚する時期と重なり、悩み苦しむ時期だと言われています。人によっては”自死”という最悪な選択が過る時期であるとアンケート調査で明らかになっています。
(参考:認定NPO法人 ReBit アンケート調査『LGBTQ子ども・若者調査2022』)
教科書は、子どもの学びには言うまでもなく大事ですが、考え方や生き方にも大きな影響を与えるものです。
教科書展示会では、教科書で教育機会を提供する教員たちが使いやすさや教えやすさなどの視点で教科書を選ぶ機会を確保する目的もあります。
そして教科書を使用する子どもや保護者をはじめ、さまざまな立場の人が教科書をチェックし、声を届けることのできる場でもあります。
品川区では独自の教科”市民科”の授業があります。
市民科の教科書や漢字の”ことのは”などの教科書は、区教委内で独自に作成していることにも注視が必要です。
(市民科に関する記事はこちら→①どうなる?市民科と道徳教育 学習会を開催しました。②品川区独自の教科”市民科” 市民科授業地区公開講座へ参加しよう!)
(教科書問題に関する記事はこちら→教科書採択間近~子どもたちに真実を学べる教科書を手渡したい~ )
【狙われる子どもの学びの場。教科書展示会・教科書採択について】
教科書展示会は、次年度に使用する”国の審査を通った”いくつかの教科書を見比べて、子どもたちにどのような教科書を使ってほしいか、あるいは使ってほしくないか、などの意見を市民が届けられる機会なのです。
子どもが学ぶ公教育の中で、日本の戦争加害や、沖縄戦の被害を広げた日本政府の失態など、日本として反省すべき歴史を”子どもに知らせたくない”。それどころかむしろ、”無かった事にしたい”人たちが、日本が過去に行った過ちを無いものとして教科書を作成し、その教科書が国の審査に通ってしまう事態が起きています。
また、教科書をつくる出版社側のリスク(用紙やインキなど製造や編集に関係する費用の高騰・教科書取扱書店数の減少・児童生徒の減少など)から、教科書の選択肢がますます狭まる非常に危険な状況にあることも、私たちは危機感を持つべきです。
(参考→教科書協会 令和5年度教科書発行の現状と課題2023)
【教育基本法改悪から約20年経過。法律改定からの振り返りが必要ではないか?】
”教育の憲法”と言われている”教育基本法”が安倍政権によって改悪されたのは2006年です。それから18年もの時間が経ってしまいました。教育基本法の改悪が教育現場に大きな影響を与え続けています。
教育基本法が改定された理由には、”自信喪失感や閉塞感の広がり、倫理観や社会的使命感の喪失、少子高齢化による社会の活力低下、経済停滞の中での就職難”…などが挙げられ、
「21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成」が掲げられていました。
(参考→文科省HP:新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について 中央教育審議会 答申の概要)
教育基本法改悪時には、「愛国心」や「道徳心」が大きく掲げられたことや、「家庭教育」が条文に新設されたことなどが問題視されていました。
「道徳心」については、2018年から「道徳」が教科となり、個人の思想や道徳心に判断を付けることはできないことや、一方的な考えを押し付ける危険があると波紋を広げています。
「家庭教育」については、自民党による家庭教育支援法案成立に向けた動きが活発となりましたが、法律制定には繋がらず安堵しています。
しかし、地方では同じ趣旨の条例を制定する動きがあり、統一教会が法律・条例制定に向け月刊誌「世界思想」で特集を組んでいたことや、家庭教育支援法案は安倍晋三元首相ら肝入りの政策であったことなどは、報道等でも明らかになっています。
子どもの自死や不登校問題、教育現場で起きている子どもへの不適切指導や体罰などの子どもへの権利侵害について調査研究をしている専門家等は、これらの問題には”教育基本法の改悪が大きく関係している”と言います。
学校間での競争力を煽った結果、教員へ求められることも増えました。
誰もが平等にさまざまな知識を得て学べる場で、”できる子だけに向けられた授業”がされてしまい、分からない子は授業に追いつけずに孤立してしまう状況が生まれています。
基礎学力が付くはずの公立学校で、基礎学力をつけられない状況が生まれています。
品川区立学校で起きている問題については、以前のHP(➀②)でも報告をしています。
また、頭を下げる角度を細かく示し、”みんなと同じ”挨拶の方法を教え、”みんなと同じ”座り方を求めるような同じ思想や行動に導く”指導”は、子ども達の個々の個性を認めず、”みんなと同じ”ことができない子どもの”排除”へと繋がっています。
【教育基本法改悪による子どもへの悪影響と、憲法改定議論の共通点。】
憲法 13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
改憲というと、憲法9条のことが多く語られますが、憲法学者や法律家が真っ先に警鐘を鳴らすのは、上記の13条です。
自民党の憲法改正草案では、現憲法13条の「個人」は「人」と変えられています。この変更から読み取れるのは、多様性の否定です。人の個性が無視され、全ての人が「人」という総体でひとくくりにされる危険をはらむ非常に危険な改定案です。
上記で述べたように、教育現場ではすでに、”個人の個性を認めない状況”にあることに、私は非常に強い危機感を抱いています。
また、前教育基本法では、憲法の理想を実現するための教育の基本を定めた準憲法的性格を有する法律であることが明示されていましたが、現教育基本法では削除されています。
このように、現憲法を変えるために自民党は長い年月をかけて包囲網をかけ、実質的に憲法の破壊を続けています。
教科書問題や、教育基本法の問題点と共に、自民党などの憲法を変えようとしている政党の目論見や行動に目を見張り、声を挙げ続ける必要があります。皆さんの声をお寄せください。
(参考→改正前後の教育基本法の比較 自民党改憲草案
HP記事→①自民党憲法改正草案の“正体“を見据える! 講演とトークセッション ②違憲の安保・自衛隊関連法は廃案へ! 本日、田中さやかが討論を行います!)